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2015.4.29
渋谷区「同性パートナーシップ条例」の解説


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「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」が,渋谷区議会で可決・成立しました(条文は渋谷区ホームページにアップされています)。既に弁護士法人アドバンスのコラムでも取り上げさせていただいているこの条例の世間の関心は高いようで,いくつかのテレビ局から取材をいただいております

本条例の可決・成立にあたって,その内容を解説いたします。

条例の特徴

この条例の最大の特徴は,区・区民・事業者による性的少数者への差別を禁止した上で(本条例8条3項),異性間の婚姻関係と異ならない実質がある同性カップルについて,そのパートナーシップ関係を区長が証明することができるという内容を盛り込んだ点にあり(本条例2条8号,10条),この条例が「同性パートナーシップ条例」などと呼ばれる理由になっています。

渋谷区長からパートナーシップ証明を受けた同性カップルは,区民・事業者・公共的団体から最大限の配慮等がされるものとされ(本条例11条),また,渋谷区営住宅条例渋谷区区民住宅条例などの区条例の適用においても,今回の条例の趣旨が尊重されるものとされています(本条例16条)。

同性パートナーシップの法的保障が条例により図られるのは,日本国内では,この条例が初めての事例となります。

パートナーシップ証明により得られる具体的な権利・利益

条文に明示されていることは前記のとおりで,極めて抽象的な内容です。それでは,証明を受けた同性カップルには,具体的にはどのような権利ないし利益がもたられるのでしょうか。活用の仕方は様々あると思いますが,その中でも利便性が大きいと思われる次の3つの場面をご紹介いたします。

1 区内の賃貸住宅への入居(区営住宅・区民住宅・民間賃貸住宅)

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本条例16条にも明示されているとおり,証明を受けた同性カップルは,区営・区民住宅への入居に便宜が図られることになります。

渋谷区営住宅条例5条1項2号及び渋谷区区民住宅条例7条1項2号は,入居者の資格として,「現に同居し、又は同居しようとする親族(婚姻の届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者その他婚姻の予約者を含む。以下同じ。)があること」という条件を掲げており,これまで,同性カップルは「親族」には当たらないとの理由で排斥されてきましたが,渋谷区においては,証明を受けた同性カップルは,同条文にある「婚姻の届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者」として,入居資格ありと判断されることになるでしょう(なお,平成24年4月1日施行の改正公営住宅法により,旧法23条1号にあった「現に同居し,又は同居しようとする親族があること」という公営住宅入居の条件は,法律上廃止され,入居者資格として要件を課すかについて多くの部分が各自治体に委ねられることになりましたが,渋谷区を含め他の多くの自治体では,旧法に基づく規定が残っているという経緯があります。)

また,証明を受けた同性カップルは,区内の民間賃貸住宅への入居にも一定の効果があることが期待されます。本条例は,区民・事業者による差別を禁じた上で,パートナーシップ証明を最大限尊重すべきと定めていますので,同性カップルであるからとして入居を断る仲介業者や大家がいた場合には,本条例違反ということになるでしょう。

なお,このような条例違反行為があった場合,区による調査,指導,勧告及び名称公表等(本条例15条)の対象となるばかりか,不法行為(民法709条)等の一般法に基づく損害賠償責任を負う可能性があると考えられます。

2 区内の医療機関での対応(面会・医療同意)

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重篤な事故・病気での入院患者の場合,病院は「家族以外は面会謝絶」といった事実上の措置を取ることがあります。これまでは,同性のパートナーは,家族とは認められないということで,面会謝絶の措置が取られることがありました。

また,患者本人の意識がない中で手術などの身体的侵襲を伴う医療措置を行う必要がある場合,病院は「家族の同意」を得るのが通常ですが,同性のパートナーは「家族」としては扱われず,このような意思確認のプロセスから排除されてきました。

今回のパートナーシップ証明を得た同性カップルについてこのような対応をすることは本条例違反となり得るため,医療機関側の対応の改善が期待されます。

3 区内の職場での対応(家族手当・慶弔休暇など)

Shibuya Tokyo 2012 summer by Twang_Dunga Retrieved at https://flic.kr/p/dhKd2D

多くの職場において,家族手当単身赴任手当慶弔休暇といった,従業員の家族構成に応じた福利厚生制度が設けられています。

こういった制度は,会社により任意に創設された制度なので,どのような範囲を「家族」として扱うかといったことについての法律上の制限はありませんが,例えば,異性間の事実婚当事者(内縁配偶者)に対してこのような便益を提供しているにもかかわらず,パートナーシップ証明を受けた同性カップルをこれと同じように扱わないといった対応を取ることは,本条例に違反する可能性があります(本条例は7条2項で,「事業者は,男女平等と多様性を尊重する社会を推進するため,採用,待遇,昇進,賃金等における就業条件の整備において,この条例の趣旨を遵守しなければならない」としています。)。

同性パートナーを持つ従業員としては,今回のパートナーシップ証明が,職場における処遇改善を求めるきっかけになると思います。

パートナーシップ証明を得るために必要な手続

それでは,このパートナーシップ証明を得たい同性カップルは,どのような手続をとる必要があるでしょうか。

この条例の大部分は,今年の4月1日から既に施行されていますが,同性パートナーシップ証明に関する部分は1年以内に施行されることとされており,未施行です。手続の細則は区規則に委ねられているので,未だ明らかでない部分もありますが,現時点で確かな手続は以下のとおりです。

1 任意後見契約を公正証書で締結する

パートナーシップ証明を受けようとする同性カップルは,相互を任意後見受任者のひとりとする任意後見契約を締結する必要があります(本条例10条2項1号)。

任意後見契約とは,将来に認知症などの精神上の障害により財産管理等をするのに必要な判断能力が不十分になった際を想定して、サポートしてくれる人(任意後見人といいます)を,本人の判断能力があるうちに本人と任意後見受任者との間の契約で定めておくものです。任意後見契約は,公正証書で締結し,登記する必要があると法律で定められており(任意後見契約に関する法律2条1号,3条,4条1項),この手続を履践する必要があります。

異性間の婚姻配偶者であれば,事前に任意後見契約を締結しなくても法定後見の申立人になることができ(民法7条),また,運用上も配偶者を含めた親族や弁護士等の法律専門家が後見人とされることが圧倒的に多い一方,現行法上結婚が未だ認められていない同性カップルの場合,親族ではない第三者とみなされるため,このような申立をすることができず,また,後見人に選任されることに事実上のハードルがあります。

本条例が任意後見契約の締結をパートナーシップ証明にあたっての要件としたのは,任意後見契約の締結を後押しし,同性カップルの不利益を軽減する狙いがあるものと思われます。またこれに加えて,将来にわたって長期的・安定的なパートナーシップ関係にあることを確認する手段として有用であるという観点も含まれるでしょう。

2 共同生活に関する契約を公正証書で締結する

パートナーシップ証明を得る第2の要件として,「共同生活を営むに当たり,当事者間において,区規則で定める事項についての合意契約が公正証書により交わされていること」と定められています(本条例10条2項2号)。

具体的にどのような契約を締結すべきかは区規則に委ねられていて,まだ区規則は制定されていないので実際にどのような契約内容が求められるかは不明確ですが,これは,同性カップルを営む人々の一部で実践されてきたパートナーシップ契約(共同生活契約)のことを指しています。

当事務所のこちらのページでも紹介しておりますが,同性カップルのパートナーシップ契約とは,以下に掲げるような共同生活を営む上での様々な事項について,同性カップル間の契約として締結するものです。

  • 扶養義務の有無や生活費の負担の方法
  • 財産関係の定め(どの財産を特有財産とし,どの財産を共有財産とするか等)
  • 同居義務の有無
  • 貞操義務の有無
  • パートナーシップの存続期間(永久か一定期間か等)
  • パートナーシップ解消時の財産分与,慰謝料等の処理方法 など

異性間のカップルであれば,結婚したカップルはもちろん事実婚・内縁関係のカップルも含め,民法をはじめとする法律や判例・実務の積み重ねにより上記のような事項の処理が定められていて,当事者間の権利義務としてかなり明確に保障されています。しかし,同性カップルにおいては,こうした法律の定めもなく判例や実務の積み重ねもありませんので,当事者間の契約という形でカバーすることが有用な状況にあります。

本条例がパートナーシップ契約の締結を要件としたのは,このような契約の締結を後押しすることで,同性カップル間の権利義務関係を明確化し,法的安定性を高める狙いがあるものと思われます。また,長期かつ安定的なパートナーシップ関係であることを確認する手段として側面があることは前述のとおりです。

3 そのほかの要件について

また,本条例は,上記2つの契約書以外にも,パートナーシップ証明の申請手続等に関して区規則による規律が予定されています(本条例10条3項)。

たとえば,条例の条文を読む限りでは,今回のパートナーシップ証明は当事者が渋谷区民でなくても証明の対象になると読めます。しかし,渋谷区の担当者に電話で確認したのですが,まだ白紙ではあるが,区規則で,区民に限定する可能性も否定できないとの回答でした(かかる制限は,条例による委任の趣旨を逸脱して違法とも考えられるばかりか,そもそも,区内に引っ越したり区外の者が区内のサービスを利用したりする前提としてパートナーシップ証明を得られなければ何の意味があるのかとも思われ,大いに疑問です。)

また,年齢の制限等も問題になるかもしれません。今回の条例の条文には当事者の年齢についての制限はないようですが,20歳未満の未成年者が対象になってくるのかは明らかではありません(異性間の婚姻適齢が女性16歳,男性18歳であること(民法731条)に鑑みれば,少なくとも18歳とされるべきかと思います。)

そのほか,必要とされる手続や書類等については,区規則で具体的に定まってくるものと思われますので,続報が待たれます。

本条例の限界

このように,今回の条例におけるパートナーシップ証明の制度は,同性パートナーシップの法的保障の公的制度としては日本国内初という象徴的な意義があるばかりか,法的にも一定の効果が期待できるため,セクシュアルマイノリティの権利擁護の観点からは大きな一歩であると評価することができます。

しかしながら,この条例は,多くの限界を抱えています。

第1に,パートナーシップ証明による法的効果は,条文上は極めて抽象的に書かれているため,具体的にどのような効果がもたらされるかは,証明書を得た当事者が自ら切り開いていかなければなりません。前述した,賃貸物件,医療機関,職場における取扱いの3つの大きな点を取ってみても,実際に申込みをしてみたり,担当者に掛け合ってみなければ,異性間の婚姻と差別なく平等に扱われるか否かはわかりません。

第2に,第1点目とかかわることですが,法的な強制力が弱いということです。既に述べたように,この条例に反するような行為があった場合には,区による調査,指導,勧告及び名称公表等(本条例15条)の対象となるばかりか,不法行為(民法709条)等の一般法に基づく損害賠償請求ができる可能性があります。しかしながら,そもそもどのような行為が本条例に違反するのかが不明確である以上,このような措置が取られる保証はないということになります。また,区による指導等がどこまで積極的に行ってもらえるのか,それを裏付けるような人的・物的なリソースが確保されているのかといったことも不明確です(本条例の採決にあたって「相談及び苦情への対応にあたっての関係者名等の公表は避けるよう努められたい」との区議会の附帯決議がなされたことからしても,渋谷区があまり積極的に動いてくれないのではないかとの疑念を抱かざるを得ません。)

第3には,やはり前2点とも関連するのですが,この条例により得られる権利義務・法的地位は,異性カップルが婚姻により得られるそれとは程遠いということです。今回は渋谷区の条例ということもあり,おのずとその対象が限られるわけですが,これが全国レベルで施行されたと仮定しても,異性カップルが婚姻により得られる権利利益のうち,パートナーシップ証明自体や,パートナーシップ証明をもらう前提として締結しなければならない任意後見契約やパートナーシップ契約によりカバーできる面は,本当にわずかな部分にすぎません。たとえば,相続(遺言によりカバーできる部分もありますが,全く同一というレベルまでは及びません),所得税や相続税などにおける配偶者控除などの税制上の各種優遇措置,公的年金制度における第3号被保険者制度や健康保険制度における被扶養者制度などの社会保険における各種優遇措置,外国人パートナーの在留資格といった,極めて重要かつ広範な権利・利益は,未だ保障されないままです。

第4に,費用がかかるという点です。異性カップルが結婚する場合,婚姻届を最寄りの役所に提出すればよく,もちろんそれは無料で受理されます。しかし,今回のパートナーシップ証明を得るためには,任意後見契約(相互に任意後見受任者とするために2通必要)やパートナーシップ契約(1通)を公正証書で締結しなければなりません。公証役場に支払う手数料や登記費用だけで少なくとも4万円を超える金額が見込まれます(事案により異なりますが,最低限の費用として,任意後見契約は2通で合計3万円強,パートナーシップ契約は1万円強)。また,法的に正確な内容の契約を締結するためには,弁護士や行政書士等のこの問題に通じた専門家に相談することが望ましく,これには別途費用がかかります(当事務所では,パートナーシップ契約を1通3万円からお作りしており,お安く抑えるよう努めております。)。

今後への期待 ― 結びに代えて

以上,本条例による同性パートナーシップ証明についての解説をさせていただきました。本条例は,限界を多く抱えながらも,やはり大きな第一歩としての意義を有するものであって,既に東京都世田谷区兵庫県宝塚市などでも検討に入ったと伝えられているほか,国会でも同性婚に関する質疑が行われ安倍晋三首相がこれに関する答弁をするなど,議論が喚起されています。少し前では考えられないことです。

今後は,このような形で各自治体に波及しつつ,国レベルでの同性婚の法制化といった同性カップルの法的保障が進展し,ひいては,LGBT(レズビアン,ゲイ,バイセクシュアル,トランスジェンダー)などのセクシュアルマイノリティ全般の人権擁護が図られていかなければならないと思います(なお,同性婚等の同性間パートナーシップの法的保障に関しては,いくつか拙稿があるので,よろしければそちらもご高覧ください。)

行政書士 清水雄大



投稿日時:2015年4月29日